
介護士には、腰痛に悩まされて困っている人が多いです。そしてその中には、腰痛によって介護職を辞めることになる人もいます。
そのため、介護士として働く中で、腰痛を予防することはとても大切です。正しい腰痛の予防法や対処法を知っておけば、日常生活ではもちろんのこと、介護という仕事においても腰痛に悩まされることが少なくなります。
そこで今回は、「腰痛・坐骨神経痛で悩まされる介護士の予防・解消法」について解説します。
介護士で腰痛を発症する人の割合は?
介護士は、腰痛を発症しやすい職種だといえます。
介護の仕事では、高齢者を介護したり重い物を持ち上げたりする動作が多いです。そうした動作も、適切な方法で実施できれば問題ありません。しかし、介護士の多くは無資格で経験が浅い人が半数以上を占めているため、自己流のやり方で介助などを行っているのが現状です。
その結果、仕事中に腰へ過剰な負担がかかり、腰痛を発症することになります。実際に、介護職者の80パーセント以上は、腰痛を一度は起こした経験があるとされています。
そうした中で、平成23年に実施された厚生労働省の調査によると「腰痛によって週に4日以上仕事を休んだ人の割合」は、介護職(医療保険業と社会福祉施設)は全体の約1/4(26.1パーセント)を占めていました。これは、全業種の中でダントツに高い値です。
さらに同じ調査では「午前中に腰痛の発生が集中していること」や「一度腰痛になると29日以上仕事を休むことになる人が多いこと」などが明らかになっています。
また、介護職者における80パーセント以上が、入浴介護やベッドから車椅子への移乗などの介護中に腰痛を発症していることがわかっています。
このように、厚生労働省が実施した調査でも、介護士の多くが腰痛を経験していることが明らかとなっているのです。
介護士の腰痛は労災適応か?
腰痛は、介護士における「職業病」ともいえる病気です。そして既に述べたように、腰痛を発症すると長期に渡り仕事を休むことになる可能性が高いです。
そうした際に、「介護士の仕事中に発症した腰痛は労作が認められるかどうか?」ということは非常に重要になります。そこで以下に、介護士の腰痛と労災の関係性について記します。
労災(労働災害)とは
労災とは「業務中に起こった怪我や病気、死亡などのこと」を指します。
労働者を一人でも雇っている経営者や事業主には、雇用保険と合わせて「労働者災害補償保険(労災保険)」呼ばれる保険に加入することが義務付けられています。そして、労災で起こった怪我や病気に対しては、こうした労災保険によって補償されます。
労災保険の具体的な補償内容には、以下のような補償給付があります。
・療養補償給付
・休業補償給付
・障害補償給付
・遺族補償給付
・介護補償給付
また、労災保険への加入は、業種や事業規模に関係なく加入しなければいけません。そのため基本的には、誰であっても労働者であれば、労災が起こった際には労災保険の適用となるのです。
労災が認められるケース
介護士が腰痛を発症して労災が認められれば、さまざまな補償給付が受けられます。
例えば、腰痛で数日間仕事を休まなければいけなくなった場合には、休業補償給付が支給されます。また、腰痛治療のために病院を受診した際には、診察代や薬代などの療養給付が支払われることになります。
ただ、介護士をしていて腰痛になった人全てが労災として認定されるわけではありません。それは、腰痛を発症しても介護の仕事だけが原因とは限らないためです。
具体的には、厚生労働省が定めている以下の2つの基準を満たした場合だけ労災が認定されます。
・災害性の原因による腰痛
災害性の原因による腰痛とは、明らかに仕事中の出来事によって発症したケースです。
例えば、利用者の介助中にぎっくり腰を発症したり、利用者の送迎中に事故を起こしたりして腰痛になるような場合になります。
ただ、ぎっくり腰は日常的な動作で発症すると考えられるため、労災と認定されないケースが多いのが現状です。
・災害性の原因によらない腰痛
その一方で、災害性の原因によらない腰痛とは、仕事中の突発的な出来事が原因ではなく、職業上、腰に負担のかかりやすい仕事をしている人が腰痛を発症するようなケースです。
こうした場合には、職業だけでなく、作業の状態や作業期間などを考慮した上で、「仕事が原因である」と判断されたときに認定されます。
例えば、介護士は利用者の介助を日々行うため、腰痛を発症しやすい職業になります。そして、何年間も1日中入浴介助などの負担が強い業務をこなしていて腰痛が発症した場合には、労災認定を受けることができる可能性が高いです。
その他にも、長距離トラックの運転手や配電工などは、腰痛を発症しやすい職業と考えられます。
このように、介護士の腰痛が労災と認定されるケースは主に2つあります。
ちなみに、よく腰痛の原因として考えられる「腰椎椎間板ヘルニア」は、労働の積み重ねで発症する可能性が低いと考えられているため、労災として認定されにくいです。その一方で、仕事中に発症した急性のヘルニアであれば、労災が適応される可能性は高いといえます。
また当然ながら、入職前から腰痛の既往を抱えている人が、仕事によって腰痛が再発もしくは悪化した場合には、労災の認定は難しいです。
腰痛、坐骨神経痛が起こったときはヘルニアか?
介護士の中には、腰痛と並んで坐骨神経痛で悩んでいる人も少なくありません。また、腰痛と坐骨神経痛、腰椎椎間板ヘルニアは1セットで扱われることが多く、これらの違いを明確に理解していない人がほとんどです。
そこで以下に、腰痛と坐骨神経痛、腰椎椎間板ヘルニアの違いについて記します。
坐骨神経痛とは
坐骨神経とは、腰骨の中にある「脊髄(せきずい)」から足(モモ裏から足底まで)まで伸びている神経です。そして、モモやふくらはぎ、足部などの感覚や筋肉の運動を支配しています。
坐骨神経痛とは、坐骨神経の働きが何らかの原因で障害されてによって、本人が痛みを訴えているような状態をいいます。つまり、坐骨神経痛は疾患名ではなく症状なのです。
そして、坐骨神経痛を引き起こすはたくさんあります。
例えば、腰椎椎間板ヘルニアは坐骨神経痛を引き起こす原因の一つです。腰椎椎間板ヘルニアを発症すると、椎間板が正常な位置から外れて(飛び出して)しまい、坐骨神経を圧迫します。その結果、坐骨神経痛を出現させることになります。
また坐骨神経は、「梨状筋(りじょうきん)」と呼ばれる殿部(お尻部分)に存在する筋肉の下を走行しています。そのため、梨状筋が緊張して硬くなると、坐骨神経が圧迫されて坐骨神経痛を引き起こす原因になるのです。
このように坐骨神経痛は、疾患名ではなく症状名であることを理解しておくようにしましょう。
腰椎椎間板ヘルニアとは
腰椎椎間板ヘルニアは、腰に起こる整形外科的疾患として、有名な病気です。そして、ヘルニアが腰痛や坐骨神経痛の原因だと考えている人も少なくありません。
具体的には、腰痛威椎間板ヘルニアとは、腰骨と腰骨の間にある「椎間板」と呼ばれる組織が、何らかの原因で膨隆した状態です。これは、MRIを撮影することで客観的に確認することができます。
MRIの画像上でヘルニアの所見が認められると、椎間板ヘルニアと診断されます。その一方で、レントゲンではヘルニアを確認することはできません。
つまり、MRIを撮影していないのに、腰痛や坐骨神経痛という症状だけで腰椎椎間板ヘルニアといわれた場合には、本当にヘルニアを発症しているかはわからないのです。こうしたケースでは「腰椎椎間板ヘルニア疑い」というのが適切です。
このように、腰椎椎間板ヘルニアはMRI上で椎間板部の膨隆が認められた場合にのみ付けられる診断名です。
腰痛と坐骨神経痛、ヘルニアの関係性
介護士で腰痛や坐骨神経痛を持っている人の中には「ヘルニア = 腰痛、坐骨神経痛」、もしくは「腰痛、坐骨神経痛 = ヘルニア」と考えている人が多くいます。ただ、既に述べたように、坐骨神経痛とヘルニアは全く別物です。
腰痛も坐骨神経痛と同じように、疾患名というよりは症状になります。
そして、MRI上で腰椎椎間板ヘルニアが認められるからといって、腰痛や坐骨神経痛という症状が必ず出現するわけではありません。
中には、画像所献上は明らかなヘルニアが認められているにも関わらず、腰痛や坐骨神経痛といった症状が全く出現していない人もいます。また逆に、MRI上では全く異常がないのに、強い腰痛や坐骨神経痛を患っている人もいるのです。
介護士で、腰痛や坐骨神経痛をを持っている人の中には「私はヘルニアだからしょうがない……」と考えている人も少なくありません。
しかし、今まで述べたようにヘルニアと腰痛、坐骨神経痛は別物です。つまり、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けていても、腰痛や坐骨神経痛が発症するわけではありませんし、もし腰痛や坐骨神経痛が起こっても、原因がヘルニアとは限りません。
もちろん、腰椎椎間板ヘルニアと腰痛、坐骨神経痛がまったく関係していないわけではありません。
ただ、介護士の中には「ヘルニア = 腰痛、坐骨神経痛」という思い込みで、腰痛や坐骨神経痛が治りにくくなっている人も多くいます。そのため、特にこれら3つの言葉は混合して考えないようにすることが大切です。
腰痛が原因で退職する介護士はいるのか?
介護士が転職したり介護職を辞めたりする原因はさまざまです。例えば、結婚や出産によって介護職を辞める人もいますし、家族の介護が忙しくなって職場を退職する人もいます。
また介護士の中には、腰痛が原因で転職したり介護職を離れたりする人も多いです。
介護士には、20代といった若い年齢の人もいますが、基本的には30~40歳代の人が多いです。そして、訪問介護などになると、50代や60代で介護士をしている人もいます。
ただでさえ、介護士は腰に負担がかかる仕事です。当然ながら、年齢が高くなるほど腰痛は発症しやすくなります。特に、訪問介護などの現場では、入浴介助やおむつ交換、ベッドから車椅子への移乗など、腰に負担がかかる業務内容が多いです。
そうした状況で腰痛が発症して、仕事を十分にできない状態になってしまう人も少なくありません。
また、短期間で痛みが落ち着けば仕事に戻れますが、数週間、数ヶ月も腰痛が続いてしまうと、仕事を続けることが困難となります。
こうしたことから、介護士の中には腰痛が原因で転職したり、介護職自体を辞めたりする人は多いです。具体的には、介護士の10人に1人は腰痛が原因で退職するとされています。
このように、介護士には腰痛が原因で転職・退職する人はたくさんいます。
介護士が腰痛を予防・解消するための方法
今まで述べたように、介護士の中には腰痛が原因で転職・退職する人が少なくありません。
ただ、いくら介護士が腰に負担がかかりやすい仕事だといっても、しっかりと腰痛に対する予防や対策を実施することで、腰痛に悩まされることなく介護士を続けることはできます。
そこで以下に、介護士の腰痛予防・解消法について記します。
日ごろのケア(腰痛体操など)
介護士が腰痛を予防・解消するためには、当然ながら適切な介護技術を身に付けることは必須です。ただ、どれだけ介護技術を高めても腰に負担がかかることには変わりありません。
そのため、介護士は腰痛を予防・解消するためケアを習慣的に行うことが大切です。
・腰痛体操
一般的に推奨されているような腰痛体操は、介護士が腰痛を予防・解消するためのケアとして有効です。実際の方法はさまざまですが、私がおススメする腰痛体操の方法の一例を以下に記します。
| 腰の運動1 | 腰の運動2 | 骨盤の運動 |
|---|---|---|
|
1.椅子に座って、約90°足を広げます。 2.息を吐きながら力を抜き、背中全体を丸めます。 3.息を吸いながら、へそを前に突き出すようにして腰を伸ばします。 *このとき、胸を張るのではなく、骨盤と腰を動かすように意識して下さい。 4.1~3を1分程度繰り返します。 |
1.椅子に座って、約90°足を広げます。 2.頭の後ろで手を組み、胸を張ります。 3.腰を前に突出し、背中を伸ばします。 4.3の姿勢を維持したまま、息を吐きながら体を横に倒します。 5.息を吸いながら、体を③の姿勢に戻します。 6.反対も4、5を行い、左右10回ずつ繰り返します。 |
1.仰向けで両足を伸ばした状態になります。 2.両手で片ひざを抱え、同側の胸に引き付けます。 3.息を吸いながら引き付け、吐きながら少し足を戻します。 4.1~3を片方10回ずつ、左右両方行います。 |
以上の体操を、できれば朝と晩の2回、もしくは難しければどちらか1回実施することで、腰痛を予防・解消することにつながります。
・休憩時間中のケア
介護士が腰痛を予防・解消するためには、仕事の休憩中におけるケアも重要です。腰痛の多くは、長時間座り続けていたり同じ姿勢で介護し続けたりするなど、一定の負荷が腰にかかる続けることで発症します。
そのため、休憩時間などに腰のケアを実施して、腰にかかる負担を一度リセットすれば、腰痛の発症を予防・解消することにつながります。
具体的には、先ほど述べた腰痛体操を行ったり、短時間でもいいので横になったりすると効果的です。特に、昼休憩中に横になることができれば、一定時間は重力による腰への負担を取り除けます。そうすることで、午前中にかかった負荷をリセットすることになります。
このように、介護士が腰痛を予防・解消するためには、休憩時間にケアを行うことが大切です。
・夜のケア
介護士が腰痛を予防・解消するためには、休憩時間と同じように、就寝前に腰のケアを行うことも重要になります。特に「朝起きたときに腰が痛い」「動いていると痛くないが座っていると腰痛が出現する」という人は、就寝前のケアが有効です。
具体的な方法は、就寝前に以下のような「ファーラー肢位」という姿勢を30~60分維持します。

足を置く場所は、椅子や机など何でも問題ありません。ポイントは、股関節(こかんせつ)とひざ関節を90°近く曲げてリラックスすることです。この姿勢をとっている限りは、本を読んだりスマホを操作したりしても大丈夫です。
こうしたファーラー姿勢を就寝前に取ることで、日中に腰へかかった負担をリセットすることができます。
コルセット・ベルト、座薬
腰痛に悩まされる人の中には、日ごろのケアをしっかりと行っても腰痛を解消できない人もいます。そうした場合には、コルセット(腰痛ベルト)などの使用は有効です。
コルセットには、腹部を圧迫することで、いわゆる「体幹」部分を安定させる効果があります。つまり、コルセットを付けると、腰骨を支える体幹部分の筋肉が収縮して、腰が安定しているような状態になるため、腰への負担が少なくなるのです。
こうしたことから、腰への負担が大きい介護士が腰痛の予防目的や、腰痛軽減目的にコルセットを使用することは有効です。
ただ、既に述べたようにコルセットは体幹部における筋肉の働きを代償することで、腰にかかる負担を減らしています。そのため、コルセットに頼りすぎると、体幹部分の筋肉は収縮する必要がなくなるため、どんどん弱くなります。
その結果、コルセットを外すと、すぐに腰痛が出現するような状態になり、一生コルセットを離せなくなる可能性もあるのです。
そうしたことを避けるためにも、コルセットを使用するのは「負担が大きな介助動作のとき」もしくは「ぎっくり腰発症直後などで腰痛が強い時期」というように、使用場面を限定するようにしましょう。
また、痛みが強いときは、座薬などの痛み止めの薬も痛みを軽減させるためには有効です。
しかし、座薬などの痛み止めを使用する際には「薬は一時的に痛みを抑えているだけ」「慢性的な腰痛には消炎鎮痛剤は効かない」ということを理解しておくことが大切です。
そのため「腰痛が続いているから……」という理由で、慢性的に痛み止めを飲み続けることは、できるだけ避けるようにしましょう。もちろん薬の服用に関しては、医師の指示の元に行うことが必須です。
転職
今まで述べたように、介護士が腰痛を予防・解消するためには、腰のケアを習慣化したり、コルセットや痛み止めなどを使用したりすることが有効です。ただ、それでも腰痛が落ち着かない場合には、職場を退職することも考えなければいけません。
腰痛は、多くの人が抱えている病気であるため軽く捉えられがちです。しかし、腰痛は重度化すると、一生の間日常生活に支障をきたすような状態になったり、寝たきりになったりする原因となります。
そうしたことを避けるためにも、あまりに腰痛が強かったり長く続いたりしている場合には、職場の変更を検討することが必要な場合もあります。
実際に、介護士の仕事であっても、腰に負担がかからないような職場は存在します。
例えば、介護度が低い人を対象とするようなデーサービスやデイケアでは、介護士の仕事は送迎や運動指導が主となります。そのため、入浴介助や移乗などのように、介助で腰に負担がかかることは少ないです。
その他にも、老人ホームなどには、介護度が低く生活が自立している利用者を対象としているところもあります。そうした職場であれば、食事の用意や洗濯、掃除などが主な業務となり、利用者の介助をすることはほとんどないため、腰にかかる負担は小さいです。
このように、介護士といっても腰に負担がかからない職場はたくさんあります。
こうしたことから、腰への負担が小さな職場へ転職することによっても、腰痛に悩まされることなく介護の仕事を続けることができるようになります。
今回述べたように、介護士の中には腰痛が原因で退職したり転職したりする人が多くいます。そうした介護士に起こりがちな腰痛を予防・解消するためには、日ごろのケアや、コルセット・座薬(痛み止め)の使用が有効です。
そして、それでも腰痛の問題が解消しない場合には、腰に負担がかからないような業務内容の職場への転職を検討しましょう。
ただ、当然ながら職場選びを間違えると、「就職前は介助はほとんど無いと聞いていたのに、実際には毎日利用者の介助があって腰が痛い……」といったミスマッチが起こる可能性があります。
そうしたことを避けるためにも、腰痛が原因で転職をする場合には、特に転職先選びは慎重に行うことが大切です。
コメント
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